わたくしという現象は仮定された遊戯用絵札のひとつの小アルカナの象意です
「あの破廉恥(はれんち)な不届き者は、大物でしたか?」
5年ぶりに、彼女に聞いてみた。
現在の彼女の活躍を聞きながら、思い出したように問う私に、
少し恥ずかしそうに彼女は
「ぜんっぜん大物じゃなかった」
首を大きく横に振りながら答えた。
今までで一番の大物をカラダで繋ぐ
5年前、私の前にいたのは社会人1年生の彼女。
悩み、というほどでもないのだが、と彼女は今の自分の状況を話し始めた。
とある仕事関係の集まりで、彼女はある男性に出会う。
その男性が社会貢献に近い分野の法人の代表をしており、時々地方で人を集め小さなイベントを開催していることを知り、話を聞いているうち、「こんど手伝いに来ないか?」と誘われることになる。
もともと彼女の関心がある社会貢献の分野でのイベントだったので、社会人1年目の未熟な自分でも何かお手伝い出来ることがあるなら、と承諾、イベント当日、電車で2時間ほどかかる会場まで手弁当で向かい、イベントスタッフの一員として参加することになった。
イベントが終わった夜、代表の男性と女性スタッフ数人で、お疲れ会と称した食事会を近くの居酒屋で開くことになっていた。彼女もその飲み会に参加し、この企画の良いところや反省点を話し合うメンバーの会話を聞きながらお酒を飲んでいた。
今後の展開や夢を語る代表の男性の隣にいると、この法人やイベントに少しでも関わっている自分がとても大きな社会の一部になれた気がして彼女は嬉しかった。また、社会貢献を志しているグループの一員になれたことが誇らしくもあった。
自分のキャリアアップに有利になる
その夜、ホテルに誘われ、彼女はその男性と肉体関係を持った。
横文字のアルファベットが並んだ法人、その代表である男性は、
昨年子供がうまれたばかりの新婚だった。
左手の薬指に指輪もしているし、居酒屋で子供の写真もみんなに見せていたので、男性が既婚者であることは知っていたが、求められたことを断ると次回のイベントに呼ばれなくなると思い、流されるまま関係を持ったという。
もちろん彼女にも下心があった。
この男性のそばにいれば、自分の今後のキャリアアップに有利になる
そう信じていた。
「私が出会った中で、一番の大物なんです」
と彼女は真っ直ぐな目で私に言った。
・ ・ ・ ・
ちゃんちゃらおかしい
「愚の骨頂、笑止千万」
愚の骨頂(ぐのこっちょう)…非常にばかげていること。非常にくだらないこと。
https://ja.wiktionary.org/wiki/愚の骨頂
笑止千万(しょうしせんばん)….「とんでもなくばかばかしい」さま、「滑稽きわまりない」さま
https://www.weblio.jp/content/笑止千万
5年前の当時の私は、非常に強い言葉で彼女の浅はかさを非難してしまった記憶があります。
おじいちゃんおばあちゃんが大好きで、社会貢献を志し、アルバイトをしながら専門学校を卒業、就職、夢に向かって頑張っている女性を誑(たぶら)かす輩が、大物なわけないでしょう。普通に考えて。
私という現象が1枚の(象意を持った)カードであるように
何度か同じように呼び出され、関係を持った彼女に、また次のお誘いの連絡が来た。
しかし今度は企画やイベントを挟まず、食事だけのお誘いだった。食事だけで帰れないことは分かっていた。妻子ある男性が自分に何を求めているのかも分かっていた。彼女は、断りきれない性格と罪悪感の間で、大きなリスクを取っていることも身にしみて感じていた。
平気なふりをしていたが、心は壊れてしまいそうにみえた。
絶対、大丈夫。
私は確信を持って言った。
「絶対大丈夫。あなたは今後もっともっと大きな人たちに出会いますから。いま、一番の大物と思っているその方よりも、もっともっと大物に、必ず、絶対、100%、出会いますから。だから、現在1位のそのファッキンな大物にカラダと心を削られる必要は、まったく、いっさい、金輪際ありません。」
なんでそう言い切れるかって?
占い?霊能力?タロットカードにそう書いてあった?
霊感とか直感とか経験とか、多少それもあるけれど。
私がそう信じてるから。
私は、どんな悪態をつきたくなる経験をしても、どん底の底にいると感じても、人間は必ず向上している、と向上している途中だと信じています。わりとフラットに、ニュートラルに、ナチュラルに、そう思っています。
私という人間をカードにすると、きっと「人間ってさあ、ぐんぐんいい感じに成長してくよね」って意味を象徴するカードになると思います。どんな絵なんだろ(笑)。
そんな象意を持つ私の前にいるあなた。
ばりっばりの正位置であなたを見つめる私。
そんな私が現れたんだから、そりゃ。
きっと、大丈夫でしょって意味でしょ。
いま絶対どや顔してますね
その象意がブレないように修行してますから!
なんだかんだ迷いながら男性の連絡をブロック、電話も着信拒否した彼女は、今、バリバリ働きながら、後輩の指導を任せられたり、講師として数百人の前でスピーチしたり、さまざまな催しや企画展でその世界の凄い人たちと出会い、社会貢献のために自分の分野をさらに研究しているようです。もちろん、自分の肉体を安く使ったりせずに。
爪の垢を煎じて飲ませてほしいっす。
「同じ世界にいて、会う機会はたくさんあるはずなのに、あの男性の姿も見ないし、名前すら聞いたこともない。ぜんぜん大物じゃなかった(笑)」
5年後の彼女は、そう強く笑っていました。
でしょ。
いま絶対どや顔してますね
悲しいことに、自分より経験の浅い真面目な方に対して、さまざまな可能性を提示し、夢を見せ、甘い言葉でそれとなく上手に誘惑し、都合よく良い所を全部もっていく悪代官のような輩も存在します。
それもこれも経験といえば経験なのかもしれないし、そんな人ばかりでもないことも知っています。が、用心に越したことはないでしょ。
この記事に辿り着いたあなた。
ぜったい大丈夫っすよ!
私は今日もそう信じています。
最後までお読みいただきありがとうございます。