ギリシャ神話で神々の話が語り尽くされ、神と人間の物語が始まり、人間の傲慢さや強欲さが目立ち始めると、神は人間に罰を与えるようになっていきました。
神を試したタンタロスに与えられた永遠の罰、その子孫にかけられた呪いやアトレウス家の愛憎劇、有名なトロイア戦争を始めたのもこのアトレウス一族でした。
この呪いはタンタロスから数えて5世代後のオレステスにより清算されていくようなのですが、スピンオフの話が数多くあり、なかなか頭がまとまりませんでした。
ですので簡単な家系図を作成しエピソードをまとめてみました!
1・タンタロス
この悲劇の物語は今も永遠の責苦にあっているタンタロスから始まります。
ゼウスの子供とも山の神の子供ともいわれているこのタンタロスは、リュディアの王で、莫大な富を所有していたそうです。
このタンタロスは人間の身でありながら、神々の食卓に招かれ、神々しか味わうことのできない神酒のネクタルや、アンブロシア(神食)を食べることを許されていたほど、神々のお気に入りでした。
しかし彼は、オリュンポスの山頂で開催される宴の席からネクタルやアンブロシアをこっそり盗み帰り、神々の食卓の秘密を話しながら友人に振る舞うような、神をも恐れぬ人物だったようです。
ある時タンタロスは、自分の王宮へ神々を招き食事を振る舞うことになります。
その時、何を思ったのか、自分の息子のペロプスを殺し、その肉を切り刻み、大釜で煮込んでシチューを作りました。
それは「全知全能の神々ならばその肉を食べないだろう」と、神を試す行為でした。
もちろん神々はすぐに気付き、その残忍さを嫌悪し恐怖を感じて、神々でも恐れるといわれる冥界の最深部(タルタロス)に彼を送り込みました。
タンタロスはタルタロス(地獄)の沼の中に首まで浸けられました。
沼からは出られそうにありませんが、沼の水はなんとか飲めそうですし、手が届きそうな場所に、美味しそうな桃や梨、リンゴやいちじくがたわわに実っています。地獄と呼ぶには痛みや苦しみもなさそうだと、タンタロスは少し安心しました。
しかしその沼の水をタンタロスが手ですくおうとすると、すっと全ての水が引いてしまい、足元に泥しか残りません。お腹が減って頭上の枝に手を伸ばすと、たわわの実ごと枝が手の届かない高さまで逃げてしまいます。
その沼でタンタロスは永遠の飢えと渇きの罰をあたえ続けられています。
この時に神はタンタロスの一族に呪いをかけたともいわれています。
2・ペロプスとニオベー
ペロプス
タンタロスにシチューにされたペロプスは神々によって(ポセイドンに愛されるほどの美少年として)生き返らせてもらいます。
ある時、ペロプスはオイノマス王(軍神アレスの息子)の娘ヒッポダメイアに求婚します。
しかしオイノマスは「娘の結婚相手に殺される」という神託を受けていたので、娘の求婚者たちに「戦車競争で私に勝ったら結婚を許す」という条件を出し、戦車競走に負けた求婚者を次々に殺していました。
父である軍神アレスに贈られた戦車を、ヘルメス神の息子ミュルティロスを馭者(ぎょしゃ)として走らせていたので、普通の人間には勝てるはずがないですよね・・・。すでに10人以上の求婚者が殺されているそうですし。オイノマスに挑むのはかなり無謀な戦いです。
普通に求婚を断れなかったのでしょうか・・・
さすがに勝つのは無理だと思ったペロプスは、馭者のミュルティロスに取引を持ちかけます。
その取引とは、勝たせてくれたら王国の半分を分け与えるということと、彼が密かに恋しているヒッポダメイアの初夜を譲る、という内容だったそうです。
なかなか鬼畜な条件・・
ヘルメス神の子ミュルティロスは取引に応じ、戦車競走でゴール直前、一番スピードに乗っているであろう時に戦車の車輪を外します。
オイノマス王はトップスピードで転倒した戦車に轢かれ、間接的ですが「娘の結婚相手に殺される」という予言通りに命を落とします。
戦車競走に勝ったペロプスはヒッポダメイアとミュルティロスを戦車に乗せ走り出します。
そしてペロプスは岬まで来ると、ミュルティロスを海に蹴落とします。
約束を破られたミュルティロスは海に沈みながらペロプスとその一族に呪いをかけました。
ニオベー
タンタロスにはもう一人ニオベーという娘がいました。ニオベーは男女7人ずつ14人とも10人ずつ20人とも言われるたくさんの子宝に恵まれ幸せに生きていました。
しかしタンタロスの誇りの高い血筋のニオベーは、その傲慢さで罪な発言をしてしまうことになります。
ある時、市民達が女神レトの祭壇を礼拝している光景を見て、
「お前達はたった2人しか子供がいない神のために祈るの?私にはこの美貌と美しい子ども達が7倍もいるのに。女神レトよりも私を重んずるべきです。礼拝をやめて私をおがみなさい!」
・・・なんて言っちゃうんです。
言っちゃうの・・?
言っちゃうんです・・・
この発言が耳に入った女神レト子は、自分の2人の子に復讐を命じます。
レトの子は狩猟の女神でもあるアルテミス、弓矢の神でもあるアポロンなので、ニオベーの子供達は次々に弓矢によって殺されてしまいます。
それを目撃していたニオベーはショックのあまり石になってしまったといわれています。
3・アトレウスとテュエステス
アトレウス
ミュルティロスによって一族に呪いをかけられたペロプスの子、アトレウスとテュエステスの兄弟から一族の罪と呪いが始まっていきます。
アトレウスの妻のアーエロペーは弟テュエステスと愛人関係にありました。
アトレウスはミュケナイの王位継承の時に、妻と弟の計略により弟テュエステスに王位を奪われそうになり、妻と弟の愛人関係に気付きます。
テュエステスが王位継承することに異を唱えたゼウスによりアトレウスは王位を継承し、テュエステスを追放します。
妻との関係を根に持っていたアトレウスは、復讐のためにテュエステスをミュケナイに呼び戻します。
和睦のためと聞かされたテュエステスは喜んでアトレウス王との食事会に参加します。
が、アトレウスが弟に出した食事は・・なんと弟テュエステスの3人の子供の肉だったのです。
和睦をして王国の半分をもらえると思っているテュエステスが食事を食べ終えた頃、兄アトレウスは弟の食べた肉の正体を教え、もう一度テュエステスを追放します。
テュエステス
残忍な行為した兄を呪ったテュエステスは復讐のための神託を受けます。
その神託は、、
「自分の娘との子が復讐を成し遂げるだろう」というものでした。
テュエステスはすぐに娘ぺロピアのいる町に向かい、様子を伺いました。そしてぺロピアが川で裸で衣服を洗っている時にペロピアを襲い、顔を隠して娘と交わりました。その時ぺロピアはとっさに暴漢の剣を奪い、隠していました。
ぺロピアは息子アイギストスを産みすぐに捨てましたが、アトレウスに拾われ育てられました。
アイギストス
成長したアイギストスはミュケナイ王アトレウスに仕えていました。ある時、アトレウスから牢にいる罪人を殺すように命じられたアイギストスは、母ペロピアから盗んでいた剣を抜き、牢にいる男を殺そうとしました。
その時、その剣を見た男テュエステスは驚き、すぐに母ペロピアを呼んで来るように言いつけ、父テュエステスはペロピアとアイギストスに全ての真実を話しました。
真実を知ったペロピアはその剣で自害し、怒ったアイギストスは王アトレウスを殺害、テュエステスの神託は遂げられました。
4・アガメムノン
父アトレウスを殺害され王位を奪われたアガメムノンとメネラーオスの兄弟は、乳母に逃されたのちにスパルタ王の元に逃げたようです。
のちにアガメムノンはスパルタ王の計らいでミュケナイ王位を取り戻し、ティエステスとアイギストスは失脚。スパルタ王の死後、弟のメネラーオスがスパルタ王を継承しました。
この時から大神ゼウスの導きにより「トロイア戦争」は、神々を巻き込んで10年にも及ぶ長い長い戦いとなっていきます。この有名なお話はメネラーオスの妻ヘレネがトロイア王子パリスに奪われることから始まります。
妻を奪われ面子を失ったメネラーオスは兄のアガメムノンを総大将にギリシャ軍を集め、海の向こうのトロイアに攻め込もうとします。が、逆風が吹いたり風がまったく吹かない日が続き、船を出すことができません。
神託をすると「アガメムノンがアルテミスの神聖な鹿を殺したことに女神の怒りを受けている。怒りを鎮めるにはアガメムノンの子供を生贄に差出せ」という恐ろしいものでした。
アガメムノンは娘イピゲネイアを英雄アキレウスとの結婚式を挙げるという嘘をついて祭壇のある海岸まで呼び出しました。イピゲネイアはアキレウスに好意を持っていたため喜びました。妻のクリュタイムネストラも結婚式だと疑わず、娘イピゲネイアの花嫁衣装を準備し、夫アガメムノンの待つ海岸まで出向きました。
しかし、そこで行われたのは生贄の儀式で、イピゲネイアの首は父アガメムノンの手によって切られることになります。冷酷非情なアガメムノンでも苦悩の末の決断だったようです。
イピゲネイアの犠牲によって、追い風が吹き始め、ギリシア軍はトロイアへ向けて出征することができました。
溺愛していた娘を騙されて殺された妻クリュタイムネストラは、不信感と怒りからアガメムノンへの復讐を決意します。
10年に及ぶ長いトロイア戦争が終わり、完全勝利したギリシア軍の総大将アガメムノンは、トロイアの王女(カッサンドラ)を戦利品にしてミュケナイに帰還します。
アガメムノン不在の間に妻クリュタイムネストラは、なんとアトレウスを殺したアイギストスと愛人関係になっていました。
アガメムノン帰還の日、リラックスした主人を妻と愛人が共謀し、暗殺。復讐を完了させます。
5・エレクトラとオレステス
エレクトラ
父の暗殺知ったアガメムノンの娘エレクトラは、王の跡継ぎであるオレステスの幼い命も危ないと思い、オレステスを安全な叔父のもとへ逃し、成人して父の仇を討ってくれることを願いました。
オレステス
成長したオレステスは悩んでいました。当時の常識からすると殺された父の仇を討つことは当然の務めである一方で、生みの母親を息子が殺すことなど言語道断、神も許さぬ大罪だったようです。
悲劇的な苦悩をするオレステスは「父の仇を討つべし」というアポロンの神託により腹を決めることになります。
姉エレクトラと合流したオレステスは、母とアイギストスの寝室に忍び込み、父の仇アイギストスを刺し殺します。
死から逃れたい母クリュタイムネストラに命乞いをされ弱気になったオレステスは、姉に励まされながら父の仇討ちを完了させました。
しかし姉エレクトラのように強い信念を持っていなかったオレステスは、母の亡霊や、母親殺しを許さない復讐の女神エリニュスたちに追いかけられ、精神を狂気へと追いやられてしまいます。
その後のオレステス
復讐の女神から逃れようとギリシャ中を逃げ回っていたオレステスは、再び神託を受けたり、実はアルテミスに助けられていた生贄になった姉(イピゲネイア)に出会ったりしながら、女神アテナのもとで殺人の正否を問う裁判を行います。
最終的にオレステスを弁護したアテナの票により無罪となり、オレステスの呪いは解けるのでした。
その後オレステスは、トロイア戦争の原因となったヘレネを殺したり、初恋の人の結婚相手に決闘を申し込んだりしながら一族の罪を清算し、ミュケナイの王になりました(のちにスパルタ王も兼任するようです)。
2500年ほど前から改変されながら語り継がれているギリシャ神話。
当時のギリシャの時代背景や宗教観や倫理観なども分からないので、もしかしたら、信長は生き延びて僧になったりヨーロッパに渡っていた!なんてワクワクする説や、いやいや実は信長は女性だったんですっっていうようなとってもファンタジーな話なんかが混ざっているのかもしれません。(もともとファンタジーか?)
その中でもなるべく有名で筋の通った話しでまとめてみました!
トロイア戦争やオレステスの話はとても面白いので、またいつかまとめてみたいなと思います!
お読みいただきありがとうございました!